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胸アツだったNBAジャパンゲームス2019

転機をもたらした楽天とのパートナーシップ

Takaomi Kowaguchi/O-Media

パソコン通信でマニアックな情報収集が定着、発展

 

まだインターネット全盛ではなかった当時、一般的なファンにとってのNBA情報源は何種類か存在したバスケットボール関連誌と衛星放送でした。しかしそれで事足りない人たちは、ニフティサーブなどのパソコン通信でより早く、頼りになる情報を集めていました。

NBAに詳しい熱狂的なファンとして認められたければ、当時はパソコンのネットワークにも強くなるか、でなければそのような知人がいなければ難しい時代でした。

その結果、それができる人たちから「NBAオタク」と呼ばれる権威的存在が生まれました。ロゴマンが誰なのかといったことから、「Krzyzewski」はどう発音したらいいのか、そしてウィル・パデューの靴のサイズまで、何でも知っている人々です。彼らに聞けば、「NBAジャパンゲームスに来たセドリック・セバロスとは何者か」という疑問もすぐに解決するといった具合です。

今日、そのマニアックな人々はNBAファンの核となり、自らを「NBAクラスタ」と呼んでNBAオタクの新たな時代を作り出しています。彼らは長い時間を割いてリーグ関連や移籍などの情報をソーシャルメディアで追いかけます。オフィスで働いていると思われる時間にも、スマホやパソコンで好きなチームの試合を見ていることさえあります(日本では始業時間にかかるような時間帯なのですが…)。

中にはプライベートで、定期的にNBAウォッチパーティーを催す人もいます。そんなとき彼らは、自ら熱狂的に楽しむだけでなく、周囲の一般的な人々にその楽しみをわかってもらえるようなアプローチもするのです。

過去20年間の急激なIT革命を経て、この文化はより創造性を増し成長しています。スタッツに強い人、戦術系の人、バッシュの知識が豊富な人、過去の出来事に詳しい人…さまざまなNBAオタクたちがいて、新たな発見をSNSに投稿しては、バスケットボールに対する情熱を語るのです。

現在日本では、130万人以上のファンがソーシャルメディアでNBAをフォローしているといわれていますが、その背景に先ほど記したような歴史があると思います。その過程で彼らは、言うまでもなく、IT関連サービスを非常に重宝するようになりました。

20179月、楽天とその年にNBAチャンピオンとなったゴールデンステイト・ウォリアーズの提携に関する記者会見の案内を見たとき、これは最高に相性の良い提携だと感じました。その後まもなくの同年10月、楽天とNBA自体との画期的な提携も発表されます。

今、ウォリアーズのジャージーには、楽天のブランドネームが縫い付けられています。NBAのジャージーに広告が縫い付けられることには賛否両論があり、特に2017-18シーズンはそうでした。しかしメディアでの紹介も相当な量あり、人々の間で話題になったのは間違いありません。多くの日本人が、NBAチャンピオンの胸元に日本のブランドが付いていることを誇らしく感じました。楽天とNBAは、Rakuten NBAというアプリを開発し、ファンがNBAで日々起こる様々なことを日本語で見たり調べたりすることができる新しいプラットフォームの開発に着手します。

ついに来た、という感じです。NBAジャパンゲームスのない16年間がついに終わろうとしていることが予感できました。

記者席からの眺めとともに、Rakuten NBAの無料ストリーミングで細かな部分を確認しながらの観戦でした
記者席からの眺めとともに、Rakuten NBAの無料ストリーミングで細かな部分を確認しながらの観戦でした

O-Media

 先進的な手法が日本のNBAシーンを盛り上げる

 

楽天がホストとなるNBAジャパンゲームス2019は、ヒューストン・ロケッツとトロント・ラプターズを迎え、108日と10日に2試合を行いました。会場となったさいたまスーパーアリーナは両日とも20,000人に上る大観衆が集まり満員となり、ジェームス・ハーデン、ラッセル・ウエストブルック、パスカル・シアカムらスーパースターたちの輝くようなパフォーマンスに見入りました。2試合に挟まれた109日には、ディケンベ・ムトンボ、ショーン・マリオン、クリス・ボッシュといったレジェンドたちも参加したNBAファンナイトという選手とファンの交流イベントも催され、そこにも14,631人が集まりました。

今回の一連のイベントはすべて、ラグビーワールドカップ2019が日本で大成功をおさめているさなかの出来事でした。世界中から強豪が集うこのイベントでは、開催された45試合(当初予定の48試合から3試合が台風19号の影響でキャンセル)で184万枚を超えるチケットが売れたといいます。日本代表が登場した5試合のテレビ視聴率は途方もなく高水準で、例えば日本にとって史上初の準々決勝進出がかかった対スコットランド戦(日本は実際に準々決勝進出を果たしました)は平均39.2%、最高53.7%という数字です。この数字を見ても、ラグビーはテレビで大きな成功を収めたと言えます。もちろんしっかりしたオンラインサービスも持っていたとはいえ、これは間違いないところでしょう。

一方、NBAジャパンゲームス2019ではテレビ中継に代わり、Rakuten NBANBAリーグパスの無料ライブストリーミングが行われました。チケット販売もこの2つのプラットフォームの会員制度を活用していました。

NBAがこの手法を軸にファンの注目を集め、将来の極東地域における事業展開の骨格を築いたことには大きな意義があると思います。過去の記録を振り返ると、東京ドーム(野球で55,000人を収容するスタジアム)で行われた1996年と1999年の例を除き、今回の入場者数はNBAジャパンゲームスの歴代最高ということになります。テレビをはじめとした既存のメディアに頼りすぎることなく膨大な入場者数を記録、さらにはメディアからの取材申請も200に達したと聞きます。

今回は楽天が主催した初のNBAジャパンゲームスであり、楽天とNBAの提携が日本市場において機能することを十分に証明したと思います。となると、この先さらに改善された内容で再び開催してくれるのではないかと期待してしまいます。その時には、チケットや記念グッズ販売からメディア対応まで、すべてがさらに洗練されてくるのでしょう。

記者席で試合を見ながら、ダン・イセルにサインをねだった小学生時代の情景がふと頭に浮かびました。あれから40年以上が過ぎ、こうして日本で行われるNBAの試合を取材することができたのは夢のようです。バスケットボールとの出会いは一生もの――そんな思いをあらためて深めたNBAジャパンゲームス2019とともに、NBAの新たなシーズンが始まりました。

 

 

☆過去のNBAジャパンゲームス一覧☆

※カッコ内は観客数

1990年 会場=東京体育館

11.2 フェニックス・サンズ119-96ユタ・ジャズ(10,111人)

11.3 ユタ・ジャズ102-101フェニックス・サンズ(10,111人)

 

1992年 会場=横浜アリーナ

11.6 シアトル・スーパーソニックス* 111-94 ヒューストン・ロケッツ(14,544人)

11.7 シアトル・スーパーソニックス* 89-85 ヒューストン・ロケッツ(14,544人)

*=現オクラホマシティ・サンダー

 

1994年 会場=横浜アリーナ

11.4 ポートランド・トレイルブレイザーズ121-100 ロサンジェルス・クリッパーズ(14,229人)

11.5 ポートランド・トレイルブレイザーズ112-95 ロサンジェルス・クリッパーズ(14,239人)

 

1996年 会場=東京ドーム

11.7 オーランド・マジック 108-95 ニュージャージー・ネッツ**38,639人)

11.9 オーランド・マジック86-82 ニュージャージー・ネッツ**38,639人)

**=現ブルックリン・ネッツ

 

1999 会場=東京ドーム

11.6 サクラメント・キングス 100-95 ミネソタ・ティンバーウルブズ(32,623人)

11.7 ミネソタ・ティンバーウルブズ114-101 サクラメント・キングス(34,013人)

 

2003 会場=さいたまスーパーアリーナ

10.30 シアトル・スーパーソニックス* 109-100 ロサンジェルス・クリッパーズ(19,323人)

11.1 シアトル・スーパーソニックス* 124-105 ロサンジェルス・クリッパーズ(19,664人)

*=オクラホマシティ・シティ・サンダー

 

2019年 会場=さいたまスーパーアリーナ

トロント・ラプターズ134-129ヒューストン・ロケッツ(20,000人)

ヒューストン・ロケッツ119-111トロント・ラプターズ(20,000人)

 

Text by Takeshi Shibata / O-Media