NBAレジェンド、ラリー・スティールさん独占インタビュー

2017年6月25日に収録したスティールさんとのインタビューの様子を、3本に分けて公開しています。会話の内容は、それぞれの映像に続く文章でご覧ください。

2017年6月25日に収録したラリースティールさんとの独占インタビュー映像です。この貴重な機会をくださったDreams Come True Projectの皆様に厚く御礼申し上げます。

 

――あなたはスティール王を勝ち取りましたよね。1974年でしたか…。

ラリー・スティール(以下S)73-74シーズン、そうですね。

――どうやってディフェンスの能率や能力を伸ばしたんですか? 「ボール・ホーク(ball hawk=鷹のようにボールに飛び込む)」と呼ばれるような力は必要でしょうが、ディフェンスはそれだけではなく、執拗さが必要ですよね。ギャンブルばかりではなく。本当にうまいディフェンダーは、ボール・ホークにも、相手を止めるストッパーにもなれると思いますが、あなたの場合、どうしてそうなれたのですか?

S ありがとう、いい質問ですね。あまり聞かれない内容ですが、よろこんでお答えしましょう。

 私は高校時代、小さな学校に通っていました。そこでよく1対1をやったものです。1対1の激しい競い合いが大事だと思い、楽しむだけではなくてね。楽しむのはもちろんですが、本当にうまくなりたかったら、同等の相手とやらなければいけません。そのうち校内に競争相手がいなくなり、今度は2対1をやり始めたんです。

 

――2人のオフェンスをあなた1人で守る?

S そう、おかしいと思うでしょうが、私は真剣だったんです。どっちも止めてみせるゾッ! とね。そうなると、ディフェンスの観点でいえば、「目を引きつける(lead the eyes)」ということが重要でした。

 

――目を引きつける…ですか?

S 相手を引っかけるんです。つまり、説明が難しいけれど、攻撃的ディフェンダーになったんです。

 私から何かをやると見せかけて、実際にはほかのことをやるというように。決してオフェンスに駆け引きの主導権を与えないようにしました。ディフェンスとしては、相手を(自分の動きで)操りたいですからね。その結果、大学時代もそのようにプレイしてきたあとだったから、プロになったあともいつも相手をだまそうとしていました。ピート・マラビッチ(殿堂入りの名ガード)はものすごいクロスオーバードリブルを持っていたけど、こちらからしかけて。

 

――ピート・マラビッチともやったんですね!

S そう、時間があれば、ピートの面白い話しもありますよ(笑) とにかく私は、いつもオフェンスを操ろうとしていました。別の言い方をすれば、オフェンスにある動きをさせて、こちらが釣られたと見せかけて逆に戻ってくるところを狙う。相手の強みと弱みをわかってそうしていたのです。

 それに加えて、ボールがどこにあるかを常に、いつでもわかるようにしていました。ボールを見失っているかのように見えても、目の一角でボールとほかのプレイヤーの居場所をとらえていて、パスが行きそうな場所を察知していました。だからスティールを狙うことができたんです。

 

――しかし、ハーフコート全体を見渡してどうなっているかを把握するのはかなり大変でしょう。

S そうですね、しかもそれは、フルコートから始まる。ボールがどこにあるかをみるという意味でね。若い子どもたちには、教えるのがマンツーマンかゾーンかにもよるけれど、マンツーマンならば相手がどこにいるか、ボールがどこにあるかを常にわかっている必要があると話します。一般によく言われることですよね。


――コーチ経験もお持ちの立場として、子ども達のディフェンス力を伸ばすカギは何だとお考えですか?

ラリー・スティール(以下S) ディフェンスを教えるには、まず足の動かし方からです。足を一度に動かさないこと、なんとなく立つのではなく、しっかりと歩幅を維持して。NBAでは“すり足”で腰を落として守りますね。それが第一のポイントです。いわゆるスタンスと、その体勢でいかに動くかですね。

 第2には、常に視線を(マッチアップする相手の)中央付近に据えること。視線をそのあたりに据えて、自分の動きをそこにあわせるんです。相手の目の動きでもボールの流れでもありません。体の中央に集中するのです。腰の左右どちらかあたりということになるでしょう。

 もし相手が右利きだったら、腰の右側を意識します。相手を左側に追い詰めたいですからね。相手が左利きなら腰の左側を意識して、相手を右に追い詰めるわけです。

 それと、常に他の事に気を配ること。スクリーナーがどこにいるか、ボールはどこか、どうフェイントをかけてくるか、どこを見ているかといったことですね。そのうえで、相手の腰を意識して動くように。左側か右側かは、相手の聞き手によりますね。

 

――子ども達の関心を維持するのが、ディフェンスのドリルでは難しいと思うんですよね。

S いいところを突きますね!(笑) 子ども達が偏りのない技術的な発達を得られるようなドリルを選んで行いますが、あなたの言うとおり、多くのプレイヤーがディフェンスのドリルを好みませんね。

 そこはやはり、(バスケットボールに取り組む)姿勢の話になると思います。私がどう説明するかと言うと、「もしも君がバスケットボールの選手だと言うなら、本当にバスケットボールが好きなら…バスケットボールと愛情について、私と同じような理解をしているなら、すべての面で好きになってほしい」ということです。

 ドリブルしたい、シュートを打ちたい、あれがしたい、これがしたい…それだけではいけません。それができないと「あ~あ、つまんないや」となってしまう。もっとドリブルしたかった、もっとシュート打ちたいんだけどな…、もっと得点したかったのにっ…てね。

 そういった姿勢は、私の思う「バスケットボールが好きだ」ということになりません。本当に好きなら、どの側面でもしっかりやることです。

 私にとって、小学5年生で初めて中・高・大学、プロで所属したチームが、どれもフルコートか、そうでなければハーフコートでプレスディフェンスを敷くチームだったことは、非常にありがたかったですね。ディフェンスが良かったために速攻に走ることができて、レイアップに持っていけた、つまり良いプレイに対するご褒美をもらえたわけです。

 ハーフコートで良いディフェンスをしてボールを奪った後に、走らない、速攻を出さないとなると、ちょっとつらいかなと思います。そのようなチームはかなり多いですけれど。その点、私はご褒美をもらえる状況にあったという意味で、幸運でした。それもすぐさまもらえるわけです(笑)

 

――つまりディフェンスがオフェンスに火を点けるということですね。

S そのとおりです。ただし、コーチの考え方によりますけれど。コーチは一人一人違うスタイルを持っていますから。

――近頃はバスケットボールが存在感を増し、世界的に拡散しています。日本にも新しいプロリーグができ、30以上のチームがあって、アメリカからたくさんのプレイヤーがやってきています。そのように拡散しているバスケットボールですが、NBAのレベルの高さ、またそれを目にしたことが、日本でも他の国でも競技人口が増え人気が高まった要因だと思います。1992年のドリームチームなどがその例ですね。この状況をどう思いますか? バスケットボールが世界に広がり、あなたはその一部ということができます。40年前にここにきて、日本の大観衆の前で素晴らしいプレイを披露し、私などはそれを見たファンの一人として、バスケットボールの素晴らしさに触れることができたのですから。そのような流れの一部であることをどう思いますか?

Larry Steele(以下S)――まず、すごいことだと思います。バスケットボールという競技はすごいですね。ものすごく楽しくて、本当に世界中に広がりました。日本でどのような状況になっているかについては詳しくありませんでしたが、30チームとはずいぶんありますね!

 何人かの人には話したのですが、5年前、私のキャンプにも京都の近くからやってきた高校生チームがありました。

 

――ポートランドにですか!?

S――ポートランドの近くにね。チラっとお話しすると、41人の高校生が私たちのところにバスケットボールを学びにやって来たのです。コーチ仲間を呼んで見せたくなるような、美しいプレイを見せるチームでした。こちらのほうが、彼らから学ぶことがあるなと思いましたよ。

 なぜかというと、私の意見としては、アメリカでは年々、キャッチやパス、意思に沿った動きをすぐさま行う、競技を理解するといったことから、かけ離れてしまったように思えるのです。私たちは1対1、2対2、またプロでは誰かにボールを預けてその選手に頼るプレイ(アイソレーション)が多くなり、チームとして機能するとか、動いて切れ込んでというようなことを見なくなりました。

 しかし、あの高校生たちのバスケットボールは素晴らしかったんです。プレイのスタイルが本当によかったんですね。

 ファンにとってもプレイヤーにとっても状況がよくなりよろこばしい状態が継続するためには、今も数多くのチームがみせてくれているボールまわしやチームワークが、もっと披露されるべきでしょう。そのお手本がゴールデンステイト・ウォリアーズです。何しろ力を合わせてプレイするし、もちろん才能あるプレイヤーがそろっていて、外からのシュートがうまく、速攻もきっちりやり、どんどん得点を奪っていきます。

 一方で長年、90得点とか98、88、85得点に収まるスタイルが行われてきました。私に言わせれば最高のバスケットボールではありませんが、その流れは変わってきていますね。

 日本のことは詳しくわかりませんが、ボールの流れがよく、プレイをしっかり理解し、皆がボールに絡むようなプレイが見られるような状態だといいと思いますね!