Fan Zone Special

#CHOSEN_ONE 渡邊雄太の4年間

PART 4 ストレッチ・ビッグ

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department     

全米ランキング9位のバージニア大をはじめとした強豪との対戦で揉まれたジョージ・ワシントン大(以下GW)は、2014年のホリデーシーズンをハワイで過ごします。ダイヤモンドヘッド・クラシックという、インシーズンのミニトーナメントに出場するためでした。

2009年の第1回大会以来、アメリカの大手スポーツメディアESPNのバックアップにより、カレッジバスケットボールの年末恒例イベントとして歴史を築いてきたこの大会は、地元ハワイの大学を含む8チームが参加して王座を争う、ノックアウト方式のトーナメントです。2013年までのチャンピオンは、USC(サザンカリフォルニア大)、バトラー大、カンザス州大、アリゾナ大、アイオワ州大。どれも過去に幾多のNBAプレイヤーを生んだ伝統あるチームです。

2014年の第6回大会にはGWの他に、その時点で全米ランキング11位だったウィチタ州大、ネブラスカ大(シーズン開幕前のランキングでは全米21位)、コロラド大、ロヨラメリーマウント大、オハイオ大、ハワイ大、ディポール大が参加していました。GWと渡邊選手にとっては、アトランティック10カンファレンス(以下A10)の公式戦突入前のまたとない力試し。しかもホリデーシーズンにハワイで開催されるユニークなイベントであり、メディアの扱いも小さくはありません。

GWはこの大会前まで6勝3敗。しかし、2015年春のNCAAトーナメント出場権獲得に向け手にしておきたい、格上に対する金星、いわゆる“クォリティー・ウィン”がこの時点までありません。この大会で優勝することにより、それが成し遂げられそうでした。決勝戦の相手はウィチタ州大になる公算が強く、そこで勝てば、一気にその名を全米にとどろかせるのは確実です。さらに、インシーズンのトーナメントでもしGWが王座に就けば、2005年のBB&Tクラシックという大会以来9年ぶりのことであり、チームの歴史に功績を記すという意味でも大きなチャンスです。

 

渡邊選手は例のバージニア大との試合以降、2桁得点こそなかったものの、ロングレンジのシュート、リバウンド、ディフェンスで安定した働きを見せ、直近3試合ではいずれも20分以上の出場時間をもらっていました。

その活躍は、すでに地元メディアに特集されるほどのインパクトがありました。バージニア大戦直前だった11月20日に最も早く渡邊選手を特集したワシントンポストの紙面には、マイク・ロネガンHCが渡邊選手について、インサイドを主な仕事場とする4番(パワーフォワード)で起用したいために、パワーアップを課題としていることが書かれています。

一方で渡邊選手は、ポイントガードとの連係から外に飛び出してスリーを狙うピック&ポップと呼ばれるプレイで結果を出していました。長身とシュート力を生かして相手ディフェンスを外に引っ張り出すので“ストレッチ4”とか“ストレッチ・ビッグ”などと呼ばれるスタイルです。要するに、デカくて動けて良く入るプレイヤーということです。

前述のロネガンHCのコメントとは異なる方向性にも見えますが、プレイヤーとしての特徴は勧誘時から承知のことです。ロネガンHCは実際に、その特長が生かせるような形で渡邊選手を起用し続けました。

 

この時点までの結果として、スリーに関して渡邊選手は、デビュー戦終盤に放った1本の成功を含め最初の9試合で8/20(成功率40%)と上々の結果。また、12月4日にホームで行われたシーズン6試合目のUMBC戦では、残り2分26秒の速攻で、GW入り後自身初となるスラムダンクも叩き込み、ゴール近辺で力強くフィニッシュできることも示しました。このプレイの少し前、渡邊選手はドライブビング・レイアップでハード・ファウルを受けフリースローを2本沈めています。果敢にゴールに向かい得点につなげるプレイは地元ファンを沸かせ、ダンクの後にはスミス・センターに「ユウタ! ユウタ!」の大声援が沸き起こりました。

当時のGWは、自陣のハーフコートを広くカバーする1-3-1ゾーン・ディフェンスを大きな特徴としていましたが、ロネガンHCは序盤戦でこの1-3-1に渡邊選手を起用する際、ポジションを固定せずに様々な役割を与えました。

2-3、3-2、1-2-2などゴール周辺を固める陣形とちがい、この1-3-1は4人がアウトサイドで相手のパスコースに立ち、積極的にプレッシャーをかけてミスを誘発させるのが狙いです。マッチアップした相手に生真面目にプレッシャーをかけ続けるマンツーマンとともに、このアグレッシブな1-3-1ゾーンを武器として、GWはここまでの9試合で相手を平均59.8点に封じていました。

ゴール下、ウイング、センター、トップとどのポジションも、高い運動量と正確なフットワーク、ハンドワーク、さらには賢明な状況判断が必要とされます。その中で、運動能力、長身とウイングスパン、そしてコートIQを武器にプレイする渡邊選手の総合力に高い期待がかかるのもごく自然なことです。ロネガンHCは様々なテストにより、最高の効果を得られる“ユウタ起用法”を探っていたように思えました。

そして、その成果が最高の形で現れたのが、ハワイでのダイヤモンドヘッド・クラシックの舞台でした。(Part5へ続く

ジョージ・ワシントン大コロニアルズ公式ページ

GWでの初ダンクを決めた2014年12月4日の対UMBC戦後の渡邊雄太選手インタビュー映像

 

 Takeshi Shibata

O-Media/Ocean Basketball Club