#CHOSEN_ONE 渡邊雄太の4年間

PART 8 勲章

ESPN TOP10 PLAYにランクインした一撃(2015年1月15日の対リッチモンド大戦)
ESPN TOP10 PLAYにランクインした一撃(2015年1月15日の対リッチモンド大戦)

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department     

ダイヤモンドヘッド・クラシックで王座に就いてワシントンD.C.に戻ったジョージ・ワシントン大(以下GW)は、2014年内にバージニア州立軍事学校を相手にもう1つ白星を手にしてノン・カンファレンス・シーズンを終えました。そして年始の1月3日からはいよいよアトランティック10カンファレンス(以下A10)公式戦…、というタイミングで、大きなニュースが舞い込みました。それは、渡邊選手のA10週間最優秀新人賞受賞というものでした。

これはもちろん、ダイヤモンドヘッド・クラシックにおける3試合での活躍が認められての受賞です。この時までに日本人プレイヤーが単独の個人賞を獲得したという記録は、どのカンファレンスでも見つかりません(カンファレンスのベスト5セレクションだと、伊藤大司選手[2018年5月現在Bリーグ レバンガ北海道]が2006-07シーズンに、ポートランド大の一員としてウエストコースト・カンファレンスのオール・フレッシュマン・チームに選出されています)。ESPNが中継するインシーズンのトーナメントで、チームを優勝に導く重要な活躍をしたという事実は、トーナメント期間中に渡邊選手が残した平均9.0得点、4.7リバウンドという数字以上に、A10全体の価値を高める功績と認められたのかもしれません。

ニュースを受け取るこちらは、驚きとうれしさで居ても立っても居られない気持ちでした。早速インタビュー! ということで、GW広報のジェシー・フッカー氏に打診。最終的には現地のライター、マイク・スティーンストラ君が渡邊選手に話を聞いてくれることになったので、下手な手書きのメッセージを書いて彼に送り、渡邊選手に見せながら話を聞いてもらった思い出があります。

渡邊選手はダイヤモンドヘッド・クラシック準決勝のコロラド大戦で10得点したあと、1月10日の対ラサーレ大戦まで6試合連続で2桁得点を記録。この試合に敗れるまで6試合続けた連勝に大きく貢献しました。

しかし、連勝が途切れて勢いにもひと段落つくのかと思った矢先、またしても渡邊選手に関する驚くべきニュースが飛び込んできました。1月15日にホームで行われた次の試合(対リッチモンド大戦)で渡邊選手が見せた豪快なティップイン・ダンクが、ESPNのトップ10プレイで8位にランクインしたのです。37-30とリードして迎えた後半残り8分26秒、トップでボールを持つパトリシオ・ガリーノが攻め込んで放ったドライビング・レイアップがリムからこぼれるところに、右ウイングから走り込んだ渡邊選手が空中で食らいつき、そのままゴールに叩き込んだプレイでした。

渡邊選手がボールを掴みとったのは、リムからボール2つ分ほど離れた位置で、高さもほぼリムと同じでした。そこから荒々しくぶちこんだ一撃は、インサイドはまだまだ…という評判に堂々反旗を翻したかのような、迫力満点のプレイでした。

こんなプレイを日本人プレイヤーが、NCAAディビジョンⅠでできるのか!! 信じられない…。これが率直な思いでした。何度見てもスゴいし、今見ても胸のすくプレイです。

個人的には、イチローがMLBでデビューしたシーズンに一躍その名を轟かせることになった、あの“レーザービーム(1塁にランナーがいる状況でライトに転がったヒットを捕球し、サードにストライクを投げアウトにしたプレイ)”に匹敵するような驚きを感じさせてもらいました。


こちらも2015年1月15日の対リッチモンド大戦での渡邊選手2度の延長の末73-70で勝利!
こちらも2015年1月15日の対リッチモンド大戦での渡邊選手2度の延長の末73-70で勝利!

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department     

このニュースから5日後の15年1月20日、ニューヨークタイムズのオンラインサービスに、「Coming Off the Bench, a Basketball Ambassador George Washington’s Yuta Watanabe Hopes to Inspire Players in Japan(ベンチスタートのバスケ大使、ジョージ・ワシントン大の渡邊雄太 望みは日本にいるプレイヤーの発奮を促すこと)」というタイトルで渡邊選手の特集が掲載されました。シーズン初頭からアメリカの大手メディアに紹介されていた上、年末から年明けの衝撃的な活躍ぶりを見たあとだったため、この頃にはこういった報道にもそれまでと異なる感覚を持つようになりました。すでにある程度の活躍は日常茶飯事になり、見る側も期待値のハードルがグンと高くなっていたわけです。

こんな短期間でここまで大きく周囲の見方を変化させることができるとは…。私自身にしても、渡邊選手がNCAAディビジョンⅠで戦えるプレイヤーだという思いはGW入りの前から持っていましたが、この段階からここまでやれるとは想像できませんでした。

ニューヨークタイムズの報道時点でGWは14勝4敗(A10では4勝1敗)。このような好成績で突き進むチームで、日本人プレイヤーが1年生のうちから主力の一翼を担う存在として立場を確立し、かつ全米大手メディアの目を自分に向けさせた事実には、たとえようのないほど大きなインパクトがありました。アメリカから伝わってくるニュースはどれも、渡邊選手がいわゆる“NBAマテリアル(NBAで通用する素材)”だということを確信させてくれるものであり、それはすなわち、日本にいるほかのプレイヤーにもアメリカで活躍できる力が十分あることを示しているように思いました。(PART9に続く)

 

Takeshi Shibata

O-Media/Ocean Basketball Club

 

〈関連リンク〉

ESPNトップ10プレイの映像(GW公式サイト内)

2015年1月20日のニューヨークタイムズの記事