#CHOSEN_ONE 渡邊雄太の4年間

PART 9 スターターに抜擢

2015年2月14日の対VCU戦での渡邊選手。7得点、5リバウンドも強敵相手に勝利ならず
2015年2月14日の対VCU戦での渡邊選手。7得点、5リバウンドも強敵相手に勝利ならず

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department     

渡邊選手がESPNのトップ10プレイに名を連ねた2015年1月15日の対リッチモンド大戦を皮切りに、ジョージ・ワシントン大(以下GW)は同24日の対デュケイン大戦まで4連勝を記録。通算成績16勝4敗、アトランティック10カンファレンス(以下A10)では6勝1敗と好調を維持していました。ところが同27日に行われたバージニア・コモンウェルズ大(以下VCU)とのアウェイゲームに48-72と惨敗を喫すると、その後勢いを失ってしまいます。

VCUは有能な若手指導者、シャカ・スマート(現テキサス大HC)が指揮官を務め、この時点で全米14位にランクされていた強豪。シーズン前の予想でもA10優勝の最有力候補で、GWとの対戦時点でA10首位の6勝0敗(シーズン通算16勝3敗)という成績を残していました。ただしGWもVCUに次ぐ高い前評判を得ていたし、かつこの時点までに全米ランク11位のウィチタ州大を倒しており、激戦が期待できるカードでした。GWにとっては、この試合に勝てばひとまずカンファレンスのトップに立つと同時に、シーズン2度目の“ジャイアント・キリング”で再び注目を浴びるチャンスでもありました。

しかし、7,500人以上を収容するVCUのホームコート、シーゲル・センターでのビッグゲームを落とし、GWはその後2月21日の対リッチモンド大戦までの7試合に1勝6敗と低迷。2014年末から15年の年明けには記者投票による全米トップ25のランキング発表でも得票があり、あと一歩でランキング入りの位置につけていましたが、ガクッと評価を下げることになりました。この間、特に目立ったのは得点力の低下。A10開幕からの7試合(6勝1敗)で平均68.3得点だったのが、対VCU戦以降の7試合(1勝6敗)では58.1と急降下していました。

立て直しを図りたいマイク・ロネガンHCは、この低迷のさなかに大きな決断をしました。VCUとのシーズン2度目の対戦に66-79で黒星を喫した後、次の対デビッドソン大(戦2月18日)からスターティング・ラインナップに渡邊選手を起用したのです。

 

2015年1月24日の対デュケイン大戦での渡邊選手。この試合からやや調子を落としてしまいます
2015年1月24日の対デュケイン大戦での渡邊選手。この試合からやや調子を落としてしまいます

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department     

渡邊選手はこの低迷の直前まで安定して20分台半ばの出場時間を得ていましたが、1月22日の対フォーダム大戦と24日の対デュケイン大戦で続けて出場時間が20分に届かない試合が2試合続きました。そしてその後のチームの低迷とともに、シューティング・スランプに陥っています。チームが低迷した前述の7試合ではフィールドゴール成功率が27.5%(40本中11本成功)、平均4.6。心配にもなるというものです。

しかし、「ベンチに得点を期待できるプレイヤーがほしい」という理由で渡邊選手をシックススマンとしてコートに送り出してきたロネガンHCは、この流れで渡邊選手の得点力、そしてコートIQに、ティップオフから期待をかけたという形です。ディフェンスでも貢献できるということも、大きなポイントだったにちがいありません。

さらに言えば、A10開幕後に渡邊選手が苦戦する時期があるだろうことは、開幕当初から予測できました。頭角を見せ始めたからこそスカウティングが行われ、厳しいマークにあうことがわかりきっているからです。これは乗り越えるべき試練であり、それができると、ロネガンHCは考えたのではないかと思います。

 

渡邊選手が初めてスターターとして登場した対デビッドソン大戦は、偶然私にとって、チャールズE.スミス・センターで渡邊選手とGWを観戦する初めての機会となりました。コートサイドで見るケビン・ラーセンの大きさやパトリシオ・ガリーノの強靭さはものすごい迫力でしたが、彼らに混ざってウォームアップする渡邊選手もたくましく、また観客からの声援で、お気に入りの一人であることもすぐにわかりました。

この試合、GWは63-65で敗れ、渡邊選手も5得点、2リバウンドにブロックとスティールが1本ずつと目立った数字は残せませんでした。しかし試合後の渡邊選手は表情も落ち着いており、前向きな心境でコートに向かうことができていたのだと感じることができました。

GWは次の対リッチモンド大戦も落としましたが、その後徐々に上り調子に向かいます。その過程で渡邊選手のスターター起用は、シーズン終了まで続きました。チーム内で、プレイヤーやコーチング・スタッフの間にどんな心の動きがあったのかは、想像するほかにありません。しかしこの大抜擢は、チーム復調の一つの要因だったと言えるでしょう。(PART10に続く

 

Takeshi Shibata / O-Media


2015年2月半ばから、渡邊選手はスターターとして起用されました
2015年2月半ばから、渡邊選手はスターターとして起用されました

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department