#CHOSEN_ONE 渡邊雄太の4年間

PART 11 2014-15シーズンフィナーレ

渡邊選手が7本のスリーを炸裂させた2015年3月7日のマサチューセッツ大との一戦のあと、ジョージ・ワシントン大(以下GW)は、同12日からのアトランティック10(以下A10)チャンピオンシップに20勝11敗の成績で臨むことになりました。会場はNBAのブルックリン・ネッツがホームとしている、バークレイズ・センター。ポストシーズンのNCAAトーナメント出場権をかけたビッグイベントにふさわしい、素晴らしいロケーションです。

初戦は、A10レギュラーシーズンの対戦で1勝1敗と星を分けたデュケイン大が相手。しかし、第11シードの相手に対し、第6シードのGWは73-55で勝利を手にし、準々決勝進出を決めました。渡邊選手はフィールドゴールを12本中5本(うちスリーは6本中2本)成功させ、パトリシオ・ガリーノ、ジョー・マクドナルド(共に当時3年)と並ぶチームトップの12得点に加え、6リバウンド、2アシストというバランスのよい貢献ぶりでした。

しかし、翌13日の準々決勝、対ロードアイランド大(第3シード)戦は思うような展開にはならず、58-71で苦杯を喫してしまいます。このチャンピオンシップでの決勝進出が、NCAAトーナメント出場への最低条件と思われたGWにとって、大変つらい敗戦…。その2日後、3月15日のセレクション・サンデーに発表されたNCAAトーナメント出場68チームに、GWは名を連ねることはできませんでした。

ただし、同日に発表されたNIT(National Invitation Tournament)出場チームに、GWの名がありました。

NITは、簡単に言えばアメリカのカレッジバスケットボールにおける二大ポストシーズン・トーナメントの一つであり、NCAAトーナメント出場当確ラインギリギリで出場を逃した32チームを招待して開催される大会と言えます。伝統的に、準決勝以上の4強の激突はニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンで行われ、まちがいなく“マーチマッドネス”の盛り上がりの一部を構成する要素です。

最大の目標だったNCAAトーナメントを逃し、チームとしては不本意な結果とも考えられますが、この舞台を得たことは、GWにも渡邊選手にも大きな価値があったと思います。GWはこのシーズンが101年目という長い歴史を持つチームですが、実際この時点では、過去に4度しか出場できていませんでした(この年が5回目、二大大会合計では16回目)。また、渡邊選手は二大大会に出場したはじめての日本人プレイヤーということになりました。

喜びよりも悔しさが大きかったかもしれないGWですが、どのようなモティベーションだったにせよ、この大会の初戦では、ピッツバーグ大を相手の地元で60-54で破りました。このシーズンのピッツバーグ大は、アメリカでも選りすぐりの強豪がひしめくACC(Atlantic Coast Conference)で15チーム中10位。2017-18NBAシーズンにオーランド・マジックの一員としてプレイした、ジャメール・アーティスも在籍しており、前評判でもGWより格上と見られていました。その相手をアウェイでねじ伏せ、GWは意地を見せた形です。

これは、GWにとってチーム史上初のNITにおける勝利であり、ポストシーズン・トーナメントでの勝利としても、2006年のNCAAトーナメント以来9年ぶりのことでした。

大会の16強に駒を進めたGWは次の対戦で、これも伝統的強豪の一つ、テンプル大に挑みますが、77-90で敗れ2014-15シーズンに幕を閉じました。ピッツバーグ大との試合で目立つ数字を残せなかった渡邊選手はこの日15得点(スリーを8本中4本成功)。30-38の劣勢で臨んだ後半には、開始直後の1分半の間にスリーとレイアップで5点を稼ぎ、チームを勢いづけました。

これで最初の一年間が終わったわけですが、シーズン中の実質5ヵ月は、感覚的にはあっという間でした。その間に週間最優秀新人賞2回、ESPNトップ10プレイ登場が1回。全米トップ25ランカー(ウィチタ州大)に対する勝利1回と、ポストシーズンのビッグトーナメント出場およびその舞台での勝利に対する貢献がありました。1試合の自己最高得点は、圧巻のスリー7本で叩き出した21。フリースロー成功率は83.1%(49/59)で、これは規定に満たないものの、このシーズンのA10フリースローランキングで3位相当の数字でした。

アメリカの新聞には、紙面でもオンラインでもたびたび紹介され、ホームコートのチャールズE.スミス・センターでは、すっかりファンのお気に入り…。何度か書いたとおり、シーズン前には、ここまでやるとは思いませんでした。しかし前述の功績が記されたのです。この意義は計り知れません。

なぜなら、この事実によりアメリカの目が多少なりとも日本に向く可能性が高まるからです。また、日本国内の関係者自体が、「アメリカで通用するわけがない」と自らの可能性を放棄するような言葉を吐かなくなるはずです。さらに、渡邊選手が2年生となる翌2015-16シーズンには、もっとスゴい活躍を期待でき、そうなれば、後続の日本人プレイヤーもいっそう現れやすくなるからです。

ルー・アルシンダー(現カリーム・アブドゥル=ジャバー)、マイケル・ジョーダンら伝説の偉人から、ケビン・デュラントやステフ・カリーら現役のNBAスーパースターまで、驚くべきバスケットボール・プレイヤーを輩出してきたNCAAディビジョンⅠ。日本人としては過去に高橋マイケル、松井啓十郎、伊藤大司の3人しかプレイした実績がないこの異次元の領域で、渡邊選手は公式戦デビューから5ヵ月間で、十分主役の座を狙える位置に駆け上がってきました。(PART12に続く

2014-15NCAA/NBAのまとめ

☆NCAAトーナメント

 チャンピオン…デューク大

 ファイナル4…ウィスコンシン大(ファイナリスト)、ケンタッキー大、ミシガン州大

 ファイナル4MVP…タイアス・ジョーンズ(デューク大)

☆NITチャンピオン…スタンフォード大(GWは2回戦進出)

☆A10

 トーナメントチャンピオン…VCU

 レギュラーシーズンチャンピオン…デビッドソン大(GWは6位)

☆NBA

 ドラフト1位…カール=アンソニー・タウンズ(ミネソタ・ティンバーウルブズ)

 チャンピオン…ゴールデンステイト・ウォリアーズ

 

Takeshi Shibata

O-Media/Ocean Basketball Club

 

<関連リンク>

A10レギュラーシーズン最終順位表

A10チャンピオンシップ公式サイト(試合結果、写真等豊富な情報があります)

A10チャンピオンシップ2回戦、対デュケイン大戦ハイライト映像