#CHOSEN_ONE 渡邊雄太の4年間

ジョージ・ワシントン大時代を振り返る

PART 14 全米6位、バージニア大を撃破

試合終了直後、喜びを爆発させたパトリシオ・ガリーノと渡邊選手
試合終了直後、喜びを爆発させたパトリシオ・ガリーノと渡邊選手

Photo courtesy of George Washington University Athletic Department

ゲームプランを完璧に遂行した後半戦

 

GW3点リードで迎えた後半は、バージニア大がギルのフリースローで先に得点を奪います。GWはガリーノのレイアップとラーセンのフリースローで突き放しますが、バージニア大は追いすがり、残り15分50秒にはロンドン・ペラントの3Pショットでついに40-39とリードを奪い返しました。

GWはディフェンスを“伝家の宝刀”1-3-1ゾーンに切り替え、オフェンスでは前半以上にポストへの比重を高め、キャバナー、ラーセンを中心に根気よく対抗していきます。極度に集中した状況の中で、ガリーノの絶妙なティップインあり、バージニア大側も落ち着いたパス回しからアウトサイドショットを連続で成功させるなど、譲らぬ展開が続きました。残り8分29秒、エヴァン・ノルティの3Pが決まった時点で、GWは54-55と1点を追う状態。

しかしここから、GWの時間帯がやってきました。ガリーノがレイアップとアンド1のフリースローを決めて57-55と逆転。次のオフェンスでは、ジョーゲンセンがラーセンのハイピックを使ってしかけたドライビングレイアップがゴールからこぼれ落ちたところに、飛び込んできたガリーノがバランスを崩しながら空中でボールをすくい上げ、そのままバンクインさせ59-55。そして続くバージニア大の攻撃では、今度は渡邊選手がターンオーバーを誘いました。オフェンシブリバウンドへの強い意欲とゴールにねじ込む執念、ディフェンス面でも手を緩めない厳しさがわずかな時間の間に凝縮されたこの流れは、結果的に勝負の行方を大きく左右したと思います。

GWはさらにキャバナーのレイアップ、渡邊選手と(1本成功)、キャバナーのフリースローで10-0のランを記録し、残り5分24秒の時点で64-55と主導権を手にしました。

 

正念場でビッグプレイを見せた渡邊選手

 

しかし勝負はまだまだついてはいません。バージニア大はここから、エースのブログドンが粘り強くオフェンスを展開。両チーム入れあいの中ではありましたが、バージニア大のここからの11得点はすべてブログドンでした。この日のブログドンは、後半だけで20得点(1試合通じてキャリアハイの28得点)を稼ぐ獅子奮迅の活躍で、シーズン前のアトランティック・コースト・カンファレンス最優秀選手の面目を保ちました。それでもGWは流れをつかんで離しませんでした。その中で渡邊選手にもビッグプレイが飛び出します。66-59の7点差となった残り4分15秒、右ウイングでボールを手にした渡邊選手は、果敢なドリブルドライブでゴールに突進。長身と運動能力を生かした豪快なプレイから放たれたレイアップは、バックボードにバンクしたあとボールがゴール上で何度か弾んでネットに吸い込まれる劇的な得点シーンになりました。この日初めてのフィールドゴールを重要な時間帯に決めた渡邊選手は、拳を振り上げて喜びを表現しました。

渡邊選手はさらに、ブログドンのフリースローで68-61と詰め寄られた残り3分15秒に、この日11得点と活躍していたギルのショート・ジャンパーをブロック。大金星を目前にしたこの時間帯、スミス・センターを包むGWファンの大歓声が、ラジオからも十分伝わってきました。

このあとGWは残り2分1秒に70-66と4点差まで追い上げられ、その後残り7秒までは、どちらも得点することができない緊迫した状態が訪れました。それを思うと、渡邊選手が記録した68点目も、バージニア大の63点目になったかもしれないショットのブロックも、非常に価値ある貢献だったと言えます。

最終スコアは73-68でGW勝利。最後はバージニア大のファウルゲームに動じず、キャバナーが2本、ラーセンが1本フリースローを成功させ、大金星が現実のものとなりました。試合終了直後、コートサイドの観客がコート上にどっとなだれ込む中、渡邊選手とガリーノが歓喜のハグを交わすシーンが会場から発信されてきましたが、その笑顔には仕事をやり切った充実感と勝利の喜びがあふれていました。

この試合、特にGWの後半の戦いぶりは見事でした。バージニア大の強力なプレッシャーに屈することなくゲームプランを徹底したことが、ショットチャートを見るとよくわかります。3Pショット1本を除くすべてを制限区域で奪っていましたが、そもそも制限区域と3Pエリア以外で放ったショットが1本しかありませんでした。全米6位のチーム相手にコート上の5人がよく動き、適切なスペーシングを長時間続けなければ、意図したように特定エリアで得点を奪い続けることはできません。また、後半GWが犯したターンオーバーはわずか3つ。これらのデータは、コーチングスタッフが描いたゲームプランをプレイヤーたちが信じ、それをやり切ったことを示していたと思います。

僅差で試合終了間際にはどちらに転んでもおかしくないルーズボールのシーンが立て続けに見られましたが、渡邊選手を含め、GWのプレイヤーたちは気迫のダイブでボールを奪いに行きました。ラジオを聴いていても、ホームアリーナでは誰にも負けるものか、というプレイヤーたちの思いがひしひしと伝わってきた時間帯でした。

3Pショットが4/15と低調だった中、この徹底した戦い方でGWは73得点を奪ったわけですが、実はバージニア大がこのシーズン対戦相手に許した得点の中で2番目に高い数字でした。バージニア大のトニー・ベネットHCは試合後、「自分たちよりも良いプレイをされた」と話していましたが、まさにそのとおり、GWがあらゆる側面で戦い切った結果、全米6位を上回るプレイができたのだと思います。

この試合でGWを率いたマイク・ロネガンHCはこの勝利について、相手のバージニア大がスミス・センターでの対戦を受け入れてくれたことに謝意を示し、「我々がこの先しっかり戦えば、バージニア大にとってこの敗戦は、長い目で見て悪い影響を及ぼさないはずだ」と述べています。アウェイで有力校に負けたとしても、それがゆくゆくネガティブな評価にはつながらないという考え方であり、それはGWには真の実力がついているとの自信に基づくコメントと言えます。バージニア大はこの試合の直後、ランキングを12位まで落としましたが、実際シーズンを通じて13位以内にランクインしていました。

ロネガンHCは渡邊選手について、「ユウタが3Pを5本も外すことはそうそうないだろう」、「パトリシオ(ガリーノ)にとって今日はフィジカルにディフェンスするのが難しい状態だったが、カバーに来たユウタが相手のショットに競い、何本かブロックしてくれた(実際には2ブロックを記録)」と話し、信頼度の高さをうかがわせました。

GWへの注目度はこの大金星で明らかに急上昇しました。全米トップ25入りに届かないながら、AP通信社の記者投票では27番目に多い85票、ESPNのコーチ投票では33番目の12票を得ています(Part 15に続く)。

後半戦のショットチャートは、前半戦以上にGW(右サイド)のオフェンス面での傾向が強く出ています
後半戦のショットチャートは、前半戦以上にGW(右サイド)のオフェンス面での傾向が強く出ています